デルタ株は、現在のワクチンでは対処出来ないみたい。

この原稿を書いているのは8月4日だが、ここ10日ほどの間に米国内の状況が一変した。「ポストコロナ」を祝うパーティームードは消え、混乱が広がっている。

 ここ1週間で、3人の友人が新型コロナに感染している。3人ともワクチンを既に接種しており、医療従事者でもない。1人は、同棲しているパートナーが感染した(パートナーももちろんワクチン接種済みだ。どこで感染したかは不明)。残りの2人は、室内での60人ほどの集まりに参加して、飲食したという。直接の知り合いの中で国内で新型コロナに感染した人は、この約1年半のパンデミックを通してたったの1人しかいなかったのに。

 世界的に著名な医療機関であるジョンズ・ホプキンズ病院に勤務する、ある疫学者も感染した。ワクチン接種者のみ15人が参加したディナーパーティーに出席し、自身を含む11人が感染した体験について、新聞に寄稿している。状況が一気に変わってしまったのは、やはりデルタ株の影響だと考えるのが妥当だろう。

マスクを着用しなくなった米国に起こったこと

ただ振り返ってみると、デルタ株が米国で広がるのも時間の問題だった。全米が「ポストコロナ」を、多くの場合はマスクなしで楽しんでいた。それどころか、サウスカロライナ州では、学校内でのマスク着用を義務付けることが禁止された。

アーカンソー州でも、学校でのマスク着用を自治体が義務付けるのは違法だとする法令が通された。これを立法した議員が「リベラル派はあなたと、あなたの子どもたちをコントロールしようとしている。マスクは安全のためなどではない、権力のためだ」とTwitterで宣言したのが、つい数カ月前。ちなみにこの議員は、現在はこの法令について後悔しているという。

 6月上旬には、全国の感染者の6%がデルタ株だったが、わずか1カ月後の7月上旬時点で、51.7%をデルタ株が占めていると米国疾病予防管理センター(CDC)が発表した。恐らく今はもっと高いのだろう。

 デルタ株に感染した人のウイルス量は、変異前の新型コロナウイルスの1000倍に及ぶとの報告がある。その上困ったことに、デルタ株の場合はワクチン接種後の人でも、接種していない人と同程度のウイルス量を喉や鼻に保有しているという報告に加え、デルタ株の感染力の強さは、普通のかぜなどよりもずっと強く、水ぼうそうにも匹敵するとCDCの内部資料に書かれていたとの報道もある。要するに、ワクチンを接種した人は非接種者に比べればリスクは低いものの、他の接種者に感染を広げる可能性があるのだ。

ウイルスへの曝露が増えた社会で急激に広がったデルタ株

 研究によれば、ファイザー社のワクチンは、デルタ株に対しても7~8割程度の有効性を持つはずだった。しかし、このデータはマスクの着用率が高い時期に収集されたもので、当時はそもそも新型コロナウイルスに曝露する頻度が少なかったと思われる。

 パーティーでハグをして、パンデミックの終わりを祝っていたつい最近では、新型コロナウイルスに曝露する頻度が大きく異なる。そして、ウイルスに曝露する頻度が高ければ、ワクチンが感染を予防する力はずっと低くなると考えられるのだ。そのため、CDCはワクチン接種のさらなる推奨とともに、接種済みの場合にも屋内におけるマスク着用を求める方針転換をしている。

 イスラエル保健省は今年7月に、ファイザー社のワクチンによる感染予防率は64%だったと報告している。それでも、入院や重症化を予防する効果は93%と、高い水準が維持されていることにはまだ救われる思いだ。

 ワクチンで新型コロナとの戦いが終わると思っていたが、それは甘い考えだったようだ。変異株の登場で予期せぬ2回戦を強いられることとなったが、ワクチンによる重症化予防効果が確かなうちに、新たな戦法を考えなくてはならないのかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました